病院の地域連携

先日、採血中に「痛くないですか?」と聞いてみた。私に採血されている患者さんは70歳代後半の女性。
「あなたの採血はいつも痛くないわ!」と。

嬉しかった。

その患者さんの話では、自宅近くの病院に移るため今日でこの病院を止めなくちゃならないとのこと。
「10年以上通っていたのに・・・寂しくて涙が出ちゃう」と言って涙ぐまれていた。


私の勤めている都内の病院はこの地域では大きな病院のほうだと思う。いつも混んでいて、診察の予約があってもなかなかその時間に診察することができない。 患者さんが多すぎて、採血するまでに30分も待たせてしまうこともザラにある。

おそらく本人の希望で病院を変えるのではなく、病状が安定しているから、自宅近くのかかりつけ医(開業医)に変わるよう医師に言われたのだろう。とはいうものの、この患者さんにとっては、長年通い慣れた病院から新しくかかりつけ医(開業医)を紹介されたようなもの。
大きな病院から、設備の少ない小さな病院に移ることは、もしかしたら見放された気持ちになったり、不安な気持ちになったのかもしれない。

近年、大きな病院とかかりつけ医の役割分担を実現しようとしているが、かかりつけ医という制度はなかなか患者さんの間に根付いていないような気がする。

かかりつけ医は、待ち時間が短かったり、大きな病院より時間をかけて話を聴いてくれたりというメリットがある。地域で連携しているので、急を要する状態なら、即大きな病院に患者さんの状態を書いた紹介状を持たせて受診してもらっているし、手術も可能だ。かかりつけ医のところでできない検査があれば地域連携している大きな病院で検査を受けることも出来る。

大きな病院とかかりつけ医(開業医)のパイプを太くして、それぞれの良いところを患者さんに提供することでよりよい地域医療の実現を目指しているのが、最近の地域医療の考え方だと思う。

愛着をもってうちの病院に通ってくれていた患者さんも、そのような体験をすればきっと「かかりつけ医」にしてよかったと思ってくれるだろう。

「かかりつけ医に替われるということは、病状が安定しているからですよ!」と言ってあげればよかった。そうしたら、患者さんの不安が少しは薄れたかもしれないと、ちょっと後悔している。
しかしながら、この患者さんに次会うときは調子の悪いときかと思うと、ちょっと複雑な気持ちになった。