お年寄りと係わって

私の勤めている病院が提携している介護施設に毎年健康診断に行っている。

今回の心電図は私が担当でホラー映画みたいなことが起こった。
相手は80代か90代の高齢なおばあちゃん。心電図を嫌がり手足を動かし抵抗していた。しょうがなく手足を抑えて心電図をとろうとしたら、何が原因かわからなかったが、腕の皮膚が裂けた。
裂けたところから赤い血ににじんだ組織と血管が見える…ビックリしたし、内心焦った。(心の中でゥワォ〜!と叫んでいた。)
心電図をとるために手伝っていたその施設の介護士さんが「大丈夫、大丈夫!」動じることもなく言った。剥離(はくり)だそうだ。
介護施設ではよくあるらしい。心電図の後、他の介護士に処置を頼んでいた。
一緒に訪問した看護師も初めての経験で驚いたと言っていた。

毎年健診のため、心電図と採血をしに看護師と臨床検査技師で訪れるが、私は介護施設に行くのが楽しみでしょうがない。
おとなしく心電図をとらせてくれる人も多いが、簡単にこちらの仕事をさせてくれない人もいる。毎回どんな困難なことで私達を迎えてくれるかワクワクし、そんなおじいちゃん、おばあちゃんに出会うのが楽しみだ。
背中がくの字に曲がったおばあちゃん、脳梗塞などで肘や膝が伸びないおじいちゃん、
手足や胸に着けている電極を着けるそばから外してしまうおばあちゃん、
「なんでこの検査が必要なのか!」と怒鳴りながら質問し、力ずくで抵抗するおじいちゃん、個性的でみんな愛すべき人達だ。
採血のときも、協力が得られない人には介護士が馬乗りになって、腕をがっちり抑えて採血することもある。
端から見れば、ひどいことをしているように見えるかもしれないが、針を刺している間に動いたら危険だから致し方ない。

ここにいるお年寄りは、70、80、90、ときには100歳を越える人々。日本の歴史、戦争を実体験として生き抜いた人達だ。
戦争に行ったことのある人、食糧難でのひもじさ、戦争で家族を失った悲しみ、戦争に向かっていく時の日本の空気を知っている。
きっとその頃の話はしたがらないかもしれないが困難な世の中を生き抜いてきた人達に敬意を持ちたい。


病院でも「これ、銃弾の跡。」と言って傷跡をみせてくれるおじいさんがいたり・・・。

ある70代後半の女性は、「あそこが痛い。」「えっ?」って聞き返すと
「若い頃、何十回も子供をおろした」
「・・・」
「相手につけてと恥ずかしくて言えなかった・・・。」とのこと。
テレビで戦後のドラマの中に出てくる「パンパン」と呼ばれた人に実際に会うと、
その当時は女性が一人で生き抜いたり、家族を養っていくことは大変だったのだろう。目頭が熱くなった。
その女性は、何も知らない私につらい過去(心の傷)を話して、少しは気持ちが楽になっただろうか・・・。
それを考えると今はいい時代だ。

人と係わっていると自分の経験したことの無い経験を話してくれることがある。
それは大きな財産だと思う。